第五話
洞窟の奥に、ぽつんと一軒、家があった。
こんな所に家があるのかと立ち止まってボーっと見てると、
トキは先に玄関の前まで行ってしまった。
「ちょ、ちょっと待てよっ」
慌ててトキの元まで駆け寄ると、何故かトキがしかめっつらをしていた。
「どうしたんだ?トキ」
俺が顔を覗き込もうとした瞬間、ヒュッと何かが物凄い勢いで通り過ぎた。
前髪数本が宙に舞い、
同時に爆風。
「は・・・?」
思考が追いつく前に、俺の目の前にあったドアは粉々に砕けていた。
「ふう」
横でトキが清清しい顔で足を下ろしていた。
「はぁ?!え、いいのか?あんなことして!」
一人焦る俺を置いてトキは当たり前のような顔で家の中へと侵入していく。
《え、放置プレイ?》
「お前にプレイをするか、馬鹿」
即座のツッコミ。どうやら冷静なよう。
とりあえず俺も一緒に入ることにした。
「失礼しまーす」
家の中はとても質素だった。
家具は必要最低限のものしかなく、しかもそのほとんどが埃をかぶっていた。
どう見ても人が住んでいるようには思えない。
その時、カサッと物音がした。
「ゴキブリっ?!」
とっさに叫んだ俺の声に、
「普通人の家訪ねてきてるのに、家主よりゴキブリなのかな?お譲さん」
見知らぬ者の声。
「よお、コルク。まだくたばってねぇのか」
トキが話し掛けた方向には、30歳程の男が立っていた。
「おぉ、トキ!元気そうだな。しかし、あまり口が過ぎるとお仕置きするぞー?」
トキの眼光に余裕の笑みで答える男、コルク。
(この人なんなんだ?めっちゃイケメンだし。てか大人の色気がすげぇ。なんか圧倒されるんですけど・・・)
「あー・・・・ノレン、こいつは俺の・・・・」
「師匠だ。どうも初めまして、お嬢さん。私はコルク。こいつの保護者で、師だ」
「え・・・・保護者?師匠?」
「保護者は余計だ!・・・・ノレン、こいつはただの俺の師匠だ」
「ほぉ、ノレンちゃんか!・・・トキ、彼女はお前の・・・・・・コレか?」
コルクはニヤニヤしながら小指を立てた。
「違ぇよばーか。いっぺん死ね」
「あ、あの、俺トキの弟子のノレンです!コレではないです!」
俺は小指を立てて必死に弁解する。
「ははっ、そんなに否定しなくても。トキが可哀想じゃないか。なぁ?」
「うっさい。・・・・・・つか俺は世間話するためにこんな所まで来たんじゃねぇよ」
「そうなのか・・・・まぁその顔からいくと結構真剣な事みたいだね」
コルクはニヤニヤしていた顔をやめ、真顔になった。
「まぁ、ここではなんだし。奥でゆっくり話を聞くよ」
トキとコルクが歩きはじめたので俺も後をついて家の奥へと入っていった。
(こうやって見ると本当に親子みたいだな)
この心の声に、トキは反応しなかった。